川辺を歩くと、陸上の植物が続く場所から、水際の植物が目立つ場所へ景観が変わります。
森林と草地の境でも、光の当たり方、地面の湿り方、植物の構成が少しずつ移り変わることがあります。
このように環境が移り変わる場所をエコトーンと呼びます。
図の見方
左側では樹木が光を遮り、林床には日陰に合う環境が広がっています。
中央では樹木が少なくなり、草地へ向かって光と植生の条件が変わります。
右側では土壌の水分が増え、水際の植物と水面が続いています。
エコトーンが示す場所
エコトーンは、「水域から陸域など、異なる環境が緩やかに変化する場所」を表す用語です。
「移行帯」や「推移帯」とも呼ばれます。
森林と草地、農地と林、水辺と陸地などが例になります。
エコトーンは、地図上に一本の線を引けば終わる境界とは限りません。
二つの環境が狭い範囲で切り替わる場合もあれば、広い範囲で緩やかに混じり合う場合もあります。
どこまでをエコトーンと捉えるかは、対象とする地域、季節、観察の尺度によって変わります。
境界で起きる変化
エコトーンでは、隣り合う環境の間を水、養分、生物などが移動します。
水辺は、陸域と水域の影響が交わるエコトーンの一例です。
水辺では、水分や土壌の状態が短い距離で変わり、陸側と水側で異なる環境条件が並びます。
このように、ある方向へ環境条件が連続して変わる状態を環境勾配と呼びます。
ただし、同じ場所でも降雨、増水、季節、人の利用によって状態は変わります。
一度の観察だけで、エコトーンの範囲や働きを固定的に判断することはできません。
生物多様性との関係
生物多様性は、種数だけではなく、生態系、種、遺伝子の三つの水準を含みます。
この三つの水準については、「生物多様性とは何か」で詳しく読めます。
エコトーンでは、両側の環境を利用する生物が見られる場合があります。
移行部分に特有の小さな環境が生じれば、利用できるすみかや資源の種類が増えることもあります。
このため、調査対象や条件によっては、隣接する環境より多くの種が記録される可能性があります。
しかし、「エコトーンでは必ず生物多様性が高い」とは判断できません。
境界が分断されている場所や、乾燥、汚染、過剰な利用の影響を受けた場所では、生物が利用できる条件が限られる場合があります。
種数だけでなく、環境の状態、調査した季節や範囲、周囲とのつながりも一緒に見ます。
変化は一様ではない
山地で樹木が生育できる範囲の上端にある森林限界も、エコトーンの一例です。
IPCC第6次評価報告書の山岳地域に関する資料では、調査された森林限界エコトーンの約67パーセントが過去数十年に上方へ移動し、約33パーセントは安定していたと報告されています。
ただし、森林限界の上方移動は、すべての地域で起きているわけではありません。
変化の方向や速さには、気温だけでなく、水分、干ばつ、積雪、風、放牧や火入れなどの土地利用、生物どうしの関係も影響します。
この知見は森林限界エコトーンを対象としたものであり、すべてのエコトーンにそのまま当てはめることはできません。
似た用語との区別
エコトーンを読むときは、「エッジ効果」や「緩衝帯」との違いを意識すると、説明の範囲が明確になります。
- エコトーン:異なる生物群集や環境が移り変わる空間的な範囲を指します。
- エッジ効果:環境の境界付近で生じる、物理的または生態的な作用を指します。
- 緩衝地域:コアエリアの周囲に配置し、保全する管理上の区域を指します。
境界域で生じる作用がエッジ効果や境界効果で、その作用が及ぶ空間的な範囲がエコトーンです。
緩衝地域は、コアエリアや生態的な回廊と組み合わせて生態系ネットワークを形成する、管理上の区域です。
つまり、エコトーンは環境が移り変わる空間、エッジ効果はそこで生じる作用、緩衝地域は保全のために設定する区域という違いがあります。
分野や制度によって用語の使い方が異なる場合があるため、個別の資料では定義を確認してください。
身近な場所を観察する手がかり
身近なエコトーンを観察するときは、生きものの種類だけでなく、環境がどのように変わるかを記録します。
例えば、立ち入りが認められた場所から、日当たり、地面の湿り方、植生、水面までの距離などを見比べます。
同じ場所を別の季節に観察すると、一度の訪問では分からなかった変化に気付くことがあります。
園路から境目を見比べる手順は、水辺から林までの境目をどう観察するかで具体的に読めます。
観察では、生きものを採集したり、別の場所へ移したりしません。
希少な生きものを見つけても、詳しい位置情報は公開しません。
現地を判断するときの注意
この記事だけでは、特定の場所がエコトーンに当たるか、その場所でどのような保全や管理が必要かを判断できません。
「境界を作れば自然が回復する」という意味でもありません。
環境を変える前に、土地の管理者や、地域を調査している専門家に相談してください。
出典と参照資料
- 水草の大量繁茂に着目した湖沼水環境管理の手引き 技術資料3 用語集と参考文献 発行元:環境省 種別:公式PDF 資料を開く
- Riparian Zones - The Ultimate Ecotones? 発行元:USDA Forest Service Rocky Mountain Research Station 種別:機関報告書 資料を開く
- Cross-Chapter Paper 5: Mountains | Climate Change 2022: Impacts, Adaptation and Vulnerability 発行元:Intergovernmental Panel on Climate Change 種別:公式資料 資料を開く
- 森林の境目の生態学的プロセスを探る:趣旨説明 発行元:日本生態学会 種別:学術論文 資料を開く
- 令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 施策第2章第2節 発行元:環境省 種別:公式ウェブページ 資料を開く